自動走行技術の活用
〜地域における持続可能な移動手段の実現に向けて〜
神戸市が関係している、自動走行技術の実証実験「まちなか自動移動サービス」は、神戸市北区のニュータウンを舞台に行われているものである(資料1-1)。
政令指定都市である神戸市においても人口減少傾向にあるが、その内訳をみると、旧市街地ではやや増加傾向にあるのに対し、ニュータウン地区での人口減少が顕著であり、その結果、市全体では人口減少となっている(資料1-2)
神戸市の将来を考えると、人口減少、特に高齢化などを背景に、郊外のニュータウンを中心にまちの活力が低下していく懸念がある。また、交通分野では、利用者の高齢化や減少、バスの運転ができる大型2種免許を持つ運転手不足などを原因として、既存の公共交通は運行本数の減便や撤退を検討しなくてはならない状況が予見される。公共交通機関の運行本数の減少や撤退、満足できないサービスは、マイカー依存もしくは「出歩かない」という状況を生み出し、人の交流の低下、商店や飲食店の衰退を招くことになり、さらに人と街の活力が低下していく負のスパイラルになりかねない。こういった状況を背景に、諸問題を解決するために考案されたのが「まちなか自動移動サービス」であった。
まちなか自動移動サービスは、自動運転技術を活用した車両で、買い物や通院など近距離移動をサポートするとともに、移動に関連した生活に役立つ情報などを提供するものである。自動運転をはじめとしたICTを活用した新たなモビリティにより、地域の人々の外出と出会いを促し、地域の活性化につなげる効果が期待される(資料2-1)。
地域内を循環するモビリティ(移動手段)の導入で、人と町、人と人とがつながり、人々が地域の維持・価値向上のための活動を拡大する。さらにモビリティが鉄道駅や既存の公共交通拠点とつながることで、町と外がつながることになる。また、モビリティやまちなかに設置されたモニタリング機器で交通状況、利用状況、安全状況などを確認、データ解析し、運行管理するもともに企業向けにデータを生かしたサービスを提供することで収益とする。これがまちなか自動移動サービスのコンセプトであり、全体像である(資料2-2)。
実証実験にあたっては、株式会社日本総合研究所が事務局が主導し、2018年8月に民間事業者を中心とする事業の実現に向けた検討体制「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」が立ち上がった。さらに、2018年11月には「神戸市近未来技術地域実装協議会」が立ち上がり、官民による緊密な協力体制が図られるようになった(資料2-3)。
なお、まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアムに参加しているのは、次の事業所・団体である。神戸市は費用負担のない協力会員という位置付けにある。
一般会員:
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、株式会社NTTデータ、沖電気工業株式会社、
関西電力株式会社、株式会社電通 など
オブザーバー:
一般財団法人日本自動車研究所
協力会員:
神戸市、神戸市北区筑紫が丘自治会、みなと観光バス株式会社 など
(参考)まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム設立について
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=33228
2016年に始まった「まちなか自動移動サービス」実証実験。毎年、「実証実験→検証と課題抽出→さらなる実証実験の検討」という流れで進化してきた。2020年以降に「持続可能な地域の移動手段を確立し、事業化と横展開を図る」ことを目標に進めている(資料2-4)。
現在、神戸市で実証実験が行われているのは、神戸市北区筑紫が丘周辺である。起伏のある丘陵地であるが、神戸市の中心繁華街・三宮からバスで30分という特徴をもつ(資料3-1)。
筑紫が丘周辺には、3つのニュータウンが近接する。筑紫が丘の住民が集まる場所はイオンつくしが丘店と筑紫が丘自治会であるものの、まちなかの道路幅員は5〜6mであることから、バスの運行も難しく、現状では徒歩かマイカーとなっている。人口も高齢化しており、高齢者は外出しにくい環境となっている(資料3-2)。
2016年度における実証実験は、「近距離低速のモビリティに対する利用ニーズの確認」を目的に、自動運転機能を持たない車両を使って実施された。結果、「住民の移動ニーズがある」「運転手ありでの実施では住民の希望する利用料(100円程度)では実現が難しい」ことが確認され、自動運転車両の活用という結論が導き出された(資料4)。
2017年度における実証実験は、「ラストマイル自動運転移動サービスのサービス実証(社会実装に向けた課題の抽出)」を目的に実施された。自動運転にはレベル1から5までの段階があるが、現時点では法整備の関係からレベル3までの体制で行わざるを得ない(運転手が運転席に座り緊急時には手動で運転)。この実証実験では、「時刻表に基づく定ルート走行型移動」と「乗りたい時にバスを呼ぶ、変動ルート・呼出型走行移動」の2種類で行われた(資料5-1)。
自動運転のレベル定義
1 システムが加減速または操舵を実行
2 システムが加減速および操舵を実行
3 システムが全て実行(緊急時は手動)
4 システムが全て実行(限定条件下)
5 システムが全て実行
2017年度の実証実験の結果、得られた課題は次の通り。
(1)交通事業者目線での課題
・車両規格の問題:実験車は大きすぎる
・GPSや遠隔監視等の通信環境:山かげに入ると通信が途切れがち
・手動自動の切替:頻繁に手動・自動の切替をせねばならず煩雑である
(2)法規制等の課題
・現行法やガイドラインのもとでは、自動運転での運用面やコスト面でのメリットが出せるものにはならない:ジュネーブ条約では運転席に人が座っておかねばならず、ここが改定されない限り、日本の関連法律も改定されず、運転手の配置が必要となる。車両的には既にレベル4のものを使っているが、実証実験はレベル3で行なっている。
(3)自動走行移動サービスに要するコストの課題
・車両コスト低減、事業運営コスト低減、利用料以外の収入確保など、安全以外のあらゆる面でコストを抑えるとともに、利用料以外の収入確保を図っていく。
(資料5-2)
2018年度の実証実験は、「まちなか自動移動サービスのサービス実証」「技術・機能実証の検証」を目的に実施された。これは、「移動サービスのほか、移動に関連した様々なサービスの可能性を検証する」「コスト削減を図りながら安価に実現できる自動運転技術の開発や機能の検証を行う」ものである(資料6-1)。
上記の目的のもと、これまでとは異なる定ルートを設定し、自動運転車両(ミニバン)と改造した自動運転機能なしの普通車両(ワゴン車両)の2車両を使用して、実証実験を行った(資料6-2)。
自動運転車両「アルルォード」は運転手を除き、最大乗車人数5人。
軽自動車を改造した自動運転機能なしの普通車両「アトレー」 も運転手を除いた最大乗車人数は5人。乗降時に10センチほど車高が下がりステップが出る仕組みに改造。
さらに3台に1台の割合で、車両に会話ロボットを搭載し、車内の雰囲気向上に寄与するかどうかを検証。
(資料6-3)
利用者の属性に応じて、イオンの割引クーポン券や市からの防災情報が印字された乗車券を発行し、これらが広告・販促支援サービスとして利用料以外の収入確保につながるかどうかを検証した。
また、車内ディスプレーに防災をはじめとした地域情報(避難所情報、防災啓発情報、イオンの販促動画)を流し、これらが広告・販促支援サービスとして利用料以外の収入確保につながかどうかを検証した。
(資料6-4)
技術・機能検証として、屋外カメラ映像とAIを活用した自動走行車両の運行支援と地域の見守りサービスができるかどうかを検証した(資料6-5)。
2018年度の実証実験結果
(1)利用者の性別と年齢
・登録者の約3分の2が女性
・60代以上が70%
(資料6-6)
(2)利用数・日別推移
・利用実績の総合計1070回
・1日あたりの平均利用数は約23回
(資料6-7)
(3)車両について
自動運転機能なしの普通車両アトレーについて気に入った点は
・ステップがあって乗りやすかった
・手すりがついて乗降や車内移動がしやすかった
自動運転機能なしの普通車両アトレーについて改善すべき点は
・特に何も思い当たらない
→ 車両規模・車内空間のあり方については、今回の実証実験で用いたステップや手すり付きの車両は、乗降や社内の移動のしやすさなどにより、利用者から好評を得たと結論。
(資料6-8)
(4)会話ロボットの効果
「車内の雰囲気が和んだ」との前向きな意見がある(64.3%)一方で、「反応が鈍かった」との回答も一定数(23.8%)あった(資料6-9)。
(5)クーポン券・車内CMの効果
商業施設との連携として実験を行ったクーポン券は、高い使用率が得られず、また、社内で配信した広告動画等の認知度も高くない結果となった。今後も継続してサービスのあり方の検討が必要だと結論(資料6-10)。
(6)住宅地内限定の移動サービスの必要性
住宅地内限定の移動サービスのニーズは高く、「必要だし、自分も使いたい」「免許返納後に必要」の回答がともに4割を超える。現在のニーズだけでなく、将来的な課題・ニーズからも必要性を感じていると結論(資料6-11)。
(7)新サービスの適正価格(定額)
定額制サービスとして導入した場合、その適正だと思われる月額料金について、500円から1000円までと回答したのは48%であり、1500円から2000円までは32%であった(資料6-12)。
(総括)
●サービス実証については
利用の動機付けに繋がる魅力あるサービス内容についてさらなる検討が必要である。
●技術・機能実証
自動運転車両の安全な走行については、事業化に必要な情報や課題を収集することができた。コストを抑えた自動運転技術の実現に向け、今後、車両に搭載する自動運転のシステムや機器について、その機能や使用等の実証が必要である。
(資料6-13)
地域住民の取り組みについては、筑紫丘自治会長が呼びかけ人となり、積極的に協力を行なうことで、今日まで前向きな関係が築かれてきた(資料7)。
今後も、地域住民の主体的な取り組みとともに、自動運転技術を活用した持続可能な移動手段の実現を目指して進められる。2019年度も12月に新たな実証実験が予定されている。
神戸市は、行政としての総合的な調整・環境整備を行う。














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