次の文章は、私が関係する大前研一通信「平成維新を実現する会からのお知らせ」内、編集委員のひとり言欄に投稿した内容です。よろしければご笑覧ください。


 あれは今から36年くらい前のことでしょうか。当時、福岡県北九州市に住んでいた私はある日母親に連れられて家の近所のスーパーに行きました。レジにはすでに大勢の人が並んでおり、「一人一個だからあなたも並ぶのよ」そう母親に言われて持たされたかごには「洗剤とトイレットペーパー」が入っていました。それはちょうど「オイルショック」で、「洗剤やトイレットペーパーが不足する」という噂が流れたのがきっかけでした。

 そのときは子供だったので事情がわからなかったのですが、1973年、原油価格の70%引き上げを受け、10月19日に当時の通商産業大臣・中曽根康弘氏が「紙節約の呼びかけ」を発表したため、その後「紙がなくなる」という噂が流れ始めたのがまず最初の背景にあったそうです。そうした中、11月1日に、大阪・千里ニュータウンにあるスーパーで「特売広告」に「紙がなくなる」(「激安で」という意味だったそうですが)と出したところ、大勢の行列ができ、2時間のうちに特売のトイレットペーパー500個が完売。特売品が完売したため、お店では特売でないトイレットペーパーを並べたところ、それもたちまち完売し、その噂を聞いたマスコミが「またたく間に値段は二倍」と報じたため、騒ぎは一気に大きくなったとか。

 このような話としては、オイルショックと同じ1973年に噂がきっかけの取り付け騒ぎで倒産寸前までいった「豊川信用金庫事件」も有名ですし、1993年天候不順により米不足が報じられ、街中から米が一気に消え(一部倉庫に隠されていたことも後で発覚したそうですが)、スーパーに長蛇の列ができたことも記憶に新しいところです。

 ところで、現在、海外渡航歴のない新型インフルエンザ感染者が関西で見つかり、その後高校生を中心に感染者が増加、街中の薬局からマスクが消える(売り切れ・生産が追いつかない)様子がマスコミで報道された翌日、私の住んでいる埼玉県南部のドラッグストアのあちこちでもマスクが完売するという状況が起こっています。

 もちろん人類が免疫を持たない「新型インフルエンザ」の発生は事実であり、国や地方自治体をあげて、その感染拡大防止に取り組んでいるのはありがたいことですが、マスコミ報道をきっかけに、噂が噂を呼んで国民の集団同一行動が発生する現象がまた起きているように思えます。

 この現象をみるにつけても、マスコミの影響の大きさと、やすやすと集団行動に走ってしまう人間心理のもろさを感じざるを得ません。情報の仕事に携わるひとりとして、いろいろ考えさせられる今日この頃です。

(文責:林冬彦)※このひとり言記は「大前研一通信事務局」とは関係ありません。