5b8ec5d1.jpg梅雨です。雨に濡れた点字タイルを当たり前にみる季節、私は歩くときとても慎重になるのです。

それは今から12年前のこと。その日は小雨が降っていて、なんとなく頭が重い土曜日の朝でした。

当時の私はしばらく休み無しで働いていてその日も休日出勤。少し体調が悪かったので30分ほど動けず、少し遅刻しての出発でした。

住んでいたのは東京都大田区久が原で最寄りは東急池上線千鳥町駅。その駅に着いた時、乗るべき電車が向かい側ホームに滑り込んでくるのが見えました。

あ！あれに乗らな！

私は向かい側のホーム目指して駅の渡り通路の階段を駆け上って行きました。通路を走り下り階段に差し掛かった時、丁度電車が停車しました。

間に合った！

そう思った瞬間、私は傘の滴で濡れた点字タイルで滑って、物凄い勢いで転倒したのでした。曲がろうとしていた遠心力も加わり、私の左足首がグニャッと曲がり、直ぐに骨折したと解りました。

しかし、不思議に冷静でした。とっさに「このまま倒れていたら恥ずかしい」という思いと、かつて聞いたことがある「骨折した直後は痛みを感じない」という記憶がわき起こり、片足で立って壁づたいにケンケンしながら移動して階段も降り、そのまま駅務室に飛込んで、「すみません、骨折したようなので救急車を呼んでください」と頼んだのでした。

その直後でした。左足首から猛烈な痛みが襲ってきました。と、同時に激しい喉の渇きを感じました。麦茶を何杯いただいたのか覚えていないくらいでした。


結局、全治10ヶ月の重傷だったのですが、その時から雨で濡れた点字タイルが苦手です。また、骨折が治った今でも雨降る日は左足首がシクシク痛みます。

ただ、この骨折があったために、私はインターネットの技術を身に付ける道に方向転換できたのでした。インターネットがまだ日本で商用化されたばかりの時期に前から注目していたこともありましたが、もしかすると足はもとに戻らないかもとお医者さんに言われたこと、たまたま技術者の人とめぐり会えたことなどいくつもの偶然が重なったのでした。

あの骨折がなかったら今の仕事はしていません。今の仕事から、沢山の幸せな出会いを頂いていることを考えると、雨に濡れた点字タイルにも感謝…すべきですが、やはり苦手。あの時の痛みが蘇ってきてどうも嫌なのであります。