
金沢・犀川に沿って歩くとき、金沢出身の文豪・室生犀星の詩をいつも思い出す。
転勤族の家庭で育った私には「故郷」と呼べる場所はないような気がする。
もちろん祖父の代までご先祖様が生活されていた京都には精神的な想い入れはあるし、小学4年生から高校卒業まで過ごし、かつ現在私の親が住んでいる福岡県福岡市を故郷と呼べなくもない。今でも帰省する度に新しい街に驚きつつも懐かしい想いにひたっている。
しかし、人が「故郷」と言った時に恐らく感じるであろう、つつみこまれる温かさのような感覚を持てる感慨が湧きにくいのだ。
それは、たぶんに、社宅住まいだったことも関係しているかもしれない。社宅住まいは所詮仮のすみか。地域に馴染まず、昔から住む人たちと密になりにくい。想い出の出来事はたくさんあっても、近所の知り合いのおじさん、おばさんといった存在はない。いつでも子どもに帰る場所ではないのだ。
福岡市に移る前は北九州市小倉に住んでいた。
先年、帰省の際、かつて住んでいた付近を歩いてみたが、すっかり光景が変わっていた。馴染みの店はなくなり、神社の敷地は公民館になり、公園は住宅地に変わり、私が住んでいた社宅も壊され整地・分割されいくつかの一戸建住宅に変わっていた。よく通った駄菓子屋もその辺り一帯が広い道路に変わりいったいどこにあったのかさえ分からなくなっていた。変わらないのは離れたところにそびえ立つ足立山くらいだった。
悲しかった。
頭では分かっていたのだが、来るべきではなかった。
そんな失意の中、とぼとぼ路地を歩いていてある角に差し掛かった時、あ!と思った。
そこは私が幼稚園に通うためのバスを待っていた場所であり、小さいときの私が勝手に決めて皆に守らせていた「ここから並んで待つ」という目印の石がまだその場所に埋まっていたのだ。
故郷という言葉が私に思い起こしてくれるのは土地ではなく、人の温もりである。温かかく楽しかった家庭の記憶、母の温もり、友達との交流....。
時は流れる。
人とは別れ、目に見えるものは移り変わる。
想い出の風景は私の心の中に残っている。それでいい。
私の場合、故郷は心深くに思い出すもの、そして新たに人との交わりの中で創りあげるもの、....かもしれない。
そう考えれば、戸田市も故郷、石川県も故郷にかわるだろう。
私は故郷を創りたい。
人との絆をつくりつつある戸田市を私の新しい故郷にしたい。
コメント
コメント一覧
住めば都でその土地ごとに新しい友人ができ、空気が馴染む頃には実家に帰省すると自分の居場所がないような違和感がありました。 今ではのんびりした生活ですが能登に住んでいても変な感じがなくなりましたね〜。
以前住んでいた所に足を運ぶと、「私はここにいたんだっけ?」っと不思議な感覚に陥る事もあります。 でも友人と会うと年月や距離は全く消えますね。
きんきんさんが書いてらっしゃるように確かに他の土地で暮らすと実家に帰った時に居場所がないような気がしますよね。
あれはどうしてでしょう?気持ちの中で今暮らしてる土地が自分の居場所と無意識に思ってるからかな?
私もたった1年ですが日本海側の金沢から太平洋側の高知市に行って暮らしていました。
その時にそういった気持ちになりました。
今、高知に行ったらどんな感じなのかなあ?
なつかしくなってしまいました。
石川に来て6年目まだ実家の鹿児島に帰ることが出来ていません。
そう先日ふゆさんに手相を見てもらったときに言われた言葉がぐさりと心にささっています。
鹿児島も18年福岡も11年いたのでどちらもふるさとって感じですか・・・
能登島も第3のふるさとですね。
鹿児島の家の前が以前は田んぼや畑だっだのが
道路が出来ていて大型店舗が立ち並んでいた時は
ショックを受けました。
小さい頃田んぼに寝転んだり、川でしらすうなぎや
すっぽんを獲っていたりしたのがなつかしかったです。
今はもういないかも・・・
今年は頑張って実家に帰ってみようと思います。
私は今では金沢に落ち着いています。
年に1度〜二年に1度帰る実家は空気があ〜ふる里
と感じますが母や兄のかもしだす雰囲気がふるさとだな〜と思います。
私も小学生の頃小川で手ぬぐいの両端を縛りメダカをゆっくりすくったこと思い出します。
ひろちゃんも何か一つはなつかしい物が発見できるかも・・・
>>きんきんさん
確かに友人と会うといくらご無沙汰していてもその時間がなかったような感覚になりますよね。そういえば、きんきんさんは大学時代京都やったね。僕はイノダコーヒー本店でよく本を読んだり書き物をしていました。また年末に行きますよ!
>>kiyomiさん
イノダコーヒーといえば、kiyomiさんもお好きでしたよね。それから高知といえば、前にも書きましたが、学生時代毎年夏に大阪からフェリーにのって行ってたんですよ。桂浜で心を洗われていました。
福岡つながりのひろちゃん、私、年末は福岡ですから、ひろちゃんが鹿児島なら同じ九州ですね。
>>なおぴょん
お母様やお兄様の醸し出す雰囲気ってすてきですね。私は仕事柄いつもわくわくしながら企画したり考えたりする必要があるので、できるだけ子供の時のことを思い出せるような工夫をしています。子供の頃のわくわく感を思い出しているのです。